神話〜MYTH

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恒星 銀河
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重力 世界
大漆黒者 全知者
太古 同調
全一者 末端者

断片群の所々にある褐色字は、原書ではルビ付き語句に、太字は強調点つき語句になっています。前者にマウスポインタを合わせると、ツールチップでそのルビが表示されます。

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第7章扉

強制と力


   魔性の重力 世界の没落

注釈リスト


136

 いまし闇が世界を覆いつつあった。
    
 《それ以前》の時間を一単位とするなら、五十二億六千三百十六万単位ものあいだ、唯の一刻も休むことなく、膨張に継ぐ膨張、拡大に継ぐ拡大をしつづけてきた闇が、遂に、間もなく、世界とひとつになるのである。

 そもそもの初めから、闇が呑み込めるような物質はもう大して残されていなかった。かつて{……}全世界に隈なく灯されていた仄かな光の微粒子群も、{……}次第しだいに暗くなり果て、いつしかその余熱も冷めてしまうと、その頃はまだ世界中に数多ちらばっていた闇の領域と、ほとんど見分けがつかなくなっていたのであった。{……}よって《それ以前》の世界とは、それはそれは静穏な、闇たちにとっての楽天境であったのだ。
   第7章冒頭

137

 そんな闇たちに転機が訪れた。
 今から五十二億六千三百十六万単位前のこと、相変わらず閉ざされた現在に埋没していたかれらは、初めその異変に気づかなかった。{……}あるとき初めの一者が訳知れず現実世界に起ち返ってみると、他の闇たち全てがじりじりと自分の方へ近づいてきていることが明らかになった。その奇怪な事態を受けて働きだした警戒の超極微振動が、間もなく他の闇たちを呼び覚ましたのである。
   P237 第14行〜

138

 闇たちの中に変わり者がいた。その同類間の知られざる異端者は、ただ現在に埋没するだけではどうしても満たされず、自分たち闇の起源とその行く末について、更にはそれらを司る架空の超絶存在について、常々ひとり観想していたのである。そうしたからとて何かが明かされたわけではなかったが、度重なる交合と更新に際しても、驚くべきことに、その観想する意識領域だけは他の記憶のように沈降することもなく、いつからか知れぬほど延々と持続してきたのであった。
   P239 第1行〜

139

 周囲に観える闇たちが、個々に識別できるほど少なくなった今、世界に浸透する警戒と不安の複合振動も、各自の本能から発せられる微かな小波となり、観想者の静かな探究を煩わすこともなかった。意識の上ではかれと隔絶している他の闇たちにとっても、既に滅びは常態と化しているようだった。
 観想者は世の行く末を感知していた   あと8回でも交合すれば、世界に存在するのは己だけになるということを……。
   P241 第17行〜

140

 はじめに力があった。《初めの動き》として顕現した能動的力である。
 また別の力があった。遍在性を取り戻そうとする受動的力である。
 瞬時にしてもう一つの力が生まれた。拮抗する二力に均衡をもたらす《意志》、即ち第三の中和的力である。
 各世界にはそれぞれ固有の力が掛けられた。一斉同時に発現された起動力群、つまり万様能動である。
 この世界に固有の能動力は、それに拮抗する受動力との間に生じる均衡点を推し進め、遂には相転移を起こした結果、様相を新たにした二つの力を世界に生み出した。進展する顕現象と潜在力である。
 顕現象と潜在力は、密接に絡み合いながら世界を進展させていった……。
   P242 第11行〜

142

 全ての物質存在は何らかの力そのものである。この世界に存在してしまっている以上、好むと好まぬとに拘わらず先天的に或る力を授けられているのだ。{……}
 銀河存在は絶大な重力を授けられている。だが仮に共食いを止めることを望んだとしても、互いに牽き寄せ合うその力を断ち切ることは自分でさえもできない。彼らにとって重力は、逃れようもなく負わされている宿業である。
   P244 第17行〜

143

 選択肢の少なさは{……}その存在の三次元“世界”における対他関係上の重大さをも表わしている。仮に地球上の全生物が潜在的な選択可能性を行使して生存を放棄し ・全滅したとしても、地球を除いた星辰存在領域には全く影響を及ぼさないであろう。ところが、銀河レヴェルはおろか恒星レヴェルの存在すべてが同じことを行なっただけでも、世界は大打撃を蒙ること必至だ。また逆に{……}分子レヴェルがこれをやれば、世界は確実に崩壊するだろう。つまり大勢への影響力が大きい存在ほど選択の幅は狭いのだ。言い換えれば、選択能とは予め許容されている逸脱限度なのである。{……}それ故にこそ甚大な力を授けられた者は、正に自身の力の奴隷なのだ。
   P245 第16行〜

144

{……}通常の微小物質や天体の吸引を捕食と見なすことは見当違いではない。食物を瞬時に消化してしまう超強力な胃液を溜めているようなものだ。ところが、相手が同じブラックホールである場合には、とても共食いとは受け取れなくなってくる。結合する両者は共に特異な非物質的身体の持ち主なのだから、瞬時にして起こるのは消化ではなくて、文字どおりの合体融合である。銀河どうしのように何十億年も争い合うことなどなく、直ぐさま新たな巨大ブラックホールとして生まれ変わるのだ。
   P246 第18行〜

145

{……}ブラックホールという存在様式は、「重力の極限作用」という題目だけに絞って展開された限定シミュレーションなのである。限定とはいえシミュレーションである以上、当存在たちの主観認識がどうであれ、やはり世界自体によって規定された機械的進展であることに変わりはない。唯その在り方が特異性として選別されているというだけの違いだ。
   P249 第17行〜

146

 三次元存在どうしを結びつけて反応させる重力は、四次元世界にあってはもはや不可視の力ではなく、絡み合う各個体繊維の形状やその変遷として実体的に表現されている。恒星を巡る惑星は極細の螺旋体として不動であり、共食いを繰り返す銀河群は癒合を重ねながらトーナメント図形を描いている。これら巨大楕円銀河部位は、やがてその繊維を細く収束させつつ黒色化していき、それらの超巨大ブラックホール部位も、同様のトーナメント形像を先の方で形成しているであろう。複雑 ・緻密な編目を成したその立体像は、正に一大オブジェとして微動だにせず{……}座を占めているのだ。
   P250 第16行〜

147

{……}重力の存在理由すなわち機能は、丸々1個のオブジェたる世界自身の形体保持に尽きる。各繊維の個体性や、その意識の保存の役には全然たっていないのだ。大型銀河に取り込まれ ・解体される矮小銀河も、ブラックホールに呑み込まれ ・解消される天体も、唯ただ“作品”全体を纏めて支えるための単なる補強部材でしかない。四次元上の接合となるためには、三次元上はしっかり食い合わなければならぬ。全体構造を強化するために、そうすることが必須なのだ。
   P252 第7行〜

150

 現行物質が“結晶化”した時点で重力が弱化されたという展開は、世界そのものによる自己調節であったと思える節がある。そのころ世界には分子以下のレヴェルしか存在していなかったが、やがて重力が優勢になる大物質が形成されていくにつれ、本来は受動的に働くはずであったこの魔物が幅を利かすようになっていく。{……}世界進展のいずれかの段階で予めこれに枷を嵌めておかなければ、自動シミュレーションとしての機能に支障を来す恐れがあったのかもしれない。魔物は飼い馴らしておく必要があったということだ。
   P257 第2行〜

152

 五次元領域においても、複数の物質存在が同時に同じ空間を占めようとすれば、そのとき生じる事態は三次元領域で出来する状況と全く変わらない。ブラックホール繊維体どうしならば交合によって、銀河繊維体どうしならば食い合うことで癒合する。もっと微小な恒星繊維体どうしは共に爆発、惑星以下の天体繊維体どうしは衝突して分解し、力学的法則どおりの角度と数量で超微細繊維群を迸らせる。ところが、数億年だろうが数十分だろうがともかく時間差がある場合には、それぞれの繊維体の縮小率、つまり位相が異なるために、五次元時空上の競合を起こすことがなく、実体どうしであってもまるで存在しないかのように透過し合えるのである。
   P263 第12行〜

153

 位相のずれは更にもう一つの重要な結果を招く。あらゆる末端存在の三次元主観意識である。各個体存在においては、この位相の間断なき変遷、正確には微分変化の時間的継続が意識の礎となっているのだ。それが故に、物質存在が必ず持っている主観意識は、三次元領域で現在という“微短”な時間にになっているのである。
   P264 第4行〜

155

{……}世界には二つの選択肢があった。一つは、時空間が吸引される速度を相対論速度にまで加速し、逆相転移を誘発させてホワイトホールを大量に造り出すことによって、時空間循環系を出現させるというもの。{……}もう一つは、ブラックホール群を膨張させることによって、時空間が引き伸ばされるのを防ぐというもの。こちらの方法を採ると、いずれ世界そのものが単一ブラックホール、つまり実質上の別世界に変じてしまう……。
 そして世界は、消滅ではなく、変容を選んだ。
 その結果…………………………………………
   P267 第6行〜

156

 実行された選択は、単に時空上の限定だけでは済まされぬ重大な変貌を自らに強いることになる。{……}選択 ・実行とは、それ以外の全可能態を手放すということである。つまり、新自己内部の全ブラックホールを膨張させ始めた“瞬間”に、世界は五次元存在であることを自ら辞めたのだ。{……}そのため、開闢後380兆年からその終末に至るまでの間、世界は実質四次元の半末端存在として過ごさねばならなくなってしまったのだ。
   P269 第10行〜

157

 活動期の世界において最大の特徴は、有限身体と無限環境の分立である。380兆年間の“揺籃期”とは決定的に異なり、外界すなわち他者が確然と存在しているのだ。とすれば、大転換点以前の世界は“幼体”でさえなく、未だ誕生前の“胚”ではないのか……。
   P271 第3行〜

158

 世界は死滅するのではなく変容する。それが終末の意味なのだ。現行世界はその胎生期間の五十二億六千三百十六万倍もの間   我われ地球生物の尺度で数えて、一兆九千九百九十九億九千九百九十九万九千六百二十年の更に一兆倍の期間   、たった一つの選択を“時々刻々”積み重ねながら自らの“生”を体現しつつ、同時に、次なる様態めざして絶え間なく遷移していくのである………。
   P272 第10行〜

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141

万物による自力の行使が世界を進展させていく。{……}世界は万物を通じて自身をシミュレートする。
   P244 第15行〜

ギャップ
148

生が終身兵役となっているのは天体存在ばかりではない。存在するということは万物にとって斯様なものであり、ただ憑きものの種類が違うだけである。
   P253 第9行〜

149

存在として自然な衝動に従うということは、自身の構造強化を図る全体世界そのものへの迎合に違いない{……}。
   P254 第5行〜

ギャップ
151

存在レヴェル間のみならず、同一レヴェル内でもその重さの違いによって、個体の時間速度は大幅に変わってくるのである。時間とは元らい主観的な現象であって、客観的に捉えることなどできないのだ。
   P259 第10行〜

ギャップ
154

ありとあらゆる存在は、ただ己のためだけに自力を行使する。また、己を守るためとあらば、如何なることでも敢えてやる。己とは、各個体の身体によって区切られた物理的実体ではなく、その主観意識が認識している(擬似)心理的領域である。極限状況に置かれたとき死守しようとするもの   それがその存在にとっての己に他ならない。
   P265 第9行〜

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