神話〜MYTH

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地球 細胞
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動物 存在
恒星 銀河
時間 寿命
重力 世界
大漆黒者 全知者
太古 同調
全一者 末端者

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第8章扉

運命と探究


   大漆黒者の孤絶 全知者の誘い

注釈リスト


159

 永い時間が過ぎ去っていた。     
 世界にはもはや観想する唯一者が残っているだけだった。     
 未だ世界はその身体よりも大きかった。     
 かれ自身の膨張はまだ続いていた。一刻も休まず続いていることは確かだった。
   第8章冒頭

160

 全てを呑み込むべく造られている闇存在は、あらゆる波長の振動を全身で捉える。かれにとって色彩音調形状は一体の印象である。光なきところに色は無く、媒体なきところに音は響かぬはずだが、観想自己を取り巻く併存世界には、そのどちらにも変じ得るが満ち満ちていた。それらは半透明かつ重奏的な精緻きわまりない遍在原質で、ただ漠然と捉えようとすると無限の果てまで重なり合って映り響くかのようだが、観想力の焦点をうまく合わせると、個々の映音像が鮮明に浮かび上がってくるのだった。
   P275 第2行〜

161

 まだかなり遠い所に、だが間違いなく存在しているらしい《かべ》が、己の全方位を包み込んでいるのが感じられた。いずれその球面を全身が圧迫し、内側から押しつぶされるというのが自分の末期なのかもしれない……。だが、ほぼ確実なその未来を想像しても、かれは少しも動揺しなかった。闇存在もち前の現実離れ故にではない。意識がずっと欲していた何かが今まさに開示されようとしているという予感があり、そちらのほうが遙かに切実だったからである。
   P276 第12行〜

163

 併存世界に満ちる全音象は、それぞれ確固たる意志を持って自己を表現している。あれらの一つ一つが何者かの 核なのである。緻密な模様はかれら自身の結晶であり、残響く軌跡はその放射なのだ。そして、あの世界ではそれら二つに原質上の区別がない。どちらも実体であり、また非実体である。なぜなら、かれらの移動は意志の流れそのものだから……。
   P277 第13行〜

164

 あの精緻な個性たちは現実世界の存在に有るような身体を持たない。絶えず変遷していくその流動的結晶は物質的実体ではなく、かといって唯の幻影でもない、何か出来が細かくて柔軟な原質の集合体なのだろう。”外方変位”などとは無縁のかれらには律動もないから、蓄積されていく記録もない。時間が時間ではないのだから当然そうだろう。たぶん個性そのものが記録であり、映音像はその開示なのだ。とすれば、個性の存続に身体の有無は係わりないのかもしれない   意志という核が強化され、本らい身体と密着している意識から独立できさえすれば……。
   P281 第16行〜

166

 遮断され隔絶しているのは位置ばかりではない。その質が全然ちがっていた。身体そのものを構成する模様を観ることは叶わなかったが、それを隈どる体感由来の暈に流れる模様なら、かなり詳しく観察することができる。{……}その様相の貧弱なまでの単調さは、かつて観想の中で想い浮かべた精緻さとは似ても似つかぬ紛い物であった。{……}各模様には個性と創造性の自覚など微塵もない。ただ本能の赴くままに流出しているだけなのだ。その画一的反復をもって各々のレヴェルを累積し、唯一者という一個の全体存在を組み上げている……それが現実世界における存在の実態だったのである。
   P285 第18行〜

167

 体感映像の全表面が“球”の内面に今にも揃って接触するかというその瞬間、全く想像だにしていなかった事態が訪れた。身体の変位も、体感の先駆けも、知覚上の包囲“面”切迫も、全てが、完全に、停止した……。

 唯一者は未知の領域にいた。
 移行したという感覚はまるでなかった。
   P287 第18行〜

168

 そのとき、何者かが、語りかけてきた。
 いや、語りかけてきたように感じた。外界における微振動を知覚したのではなく、意識内に直せつ閃いた刺激が自律的連想のごとく流れた、ということだ。その他者性を帯びた語りは、もしかしたら、唯一者がそれまで知らずに内に秘めていた、かれ自らの最内奥から到来したものだったのかもしれない。
   P289 第12行〜

169

 そういうそなたは何者か……と問い掛ける直前で想い留まった。なぜか答えを知りたくなかったのだ。
    我は《全ての全て》の《影》である。
 やはりそう来たか。だが、影とは……。
    《全ての全て》に汝ら世界内存在が直接ふれることは出来ぬ……次元が隔たり過ぎているが故に……。しかして《影》とは、低次元領域に落とされたその投影にして、《全ての全て》が意志の伝令である。
   P291 第12行〜

170

 《影》の語りは筋が通っている。その説明は偽りではなく、世界は、もしもそう望むならば、自身を自在に操れる のだ……。だとすれば、世界そのものになるというのは、なんと魅力的な誘惑だろう……。
 それは正に誘惑だった。
   P295 第12行〜

172

    無欠の理なるものが末端存在らの平穏や自由を意味するものならば、必ずしもにあらず。汝らの世界がどちらかと云えば過酷な理の下にあることは否めぬが、更に熾烈な世界は幾らでも存在する。左様な世界から来った者らの多くは、その熾烈なる特性を自在に統御せんことを、あるいは極力緩和せんことを望んだ上で、出自世界へと変じていった……。
   P298 第12行〜

173

{……}それに対して《全ての全て》は……左様、どうやら語るまでもないようだ。
    複雑の極限にして、それ自らが最多種最多様。無限にある存在様式の中で、単純きわまりないわたしの対極にある……。だから、身体内部の繊細な組成要素たるわたしたちを無闇に攪乱しないように、自らを律して微動だにしない、と……。
   P301 第4行〜

174

{……}《全ての全て》が今なすべき唯一の事業は、徹底的不介入という絶対意志の堅持のみなのだ。その大いなる自制を維持するためには、決して退屈することなきように、絶えず自らを高揚させておかなければならぬ。自戒貫徹の要は正にこの一点に尽きるであろう。
   P302 第8行〜

175

{……}諸世界の変転を延べ数千兆回ほど観察するに及んだ時、それまで存在し得なかった全く別の力が自ずから起き上がってきた。しかして、その新たなる力こそが、不朽堅牢なる絶対意志の礎となったのだ……。悠久の昔から《全ての全て》は、期待をその内に保ち続けている。
    期待とは、いったい何を……?
    《他者》の発生である。
   P304 第7行〜

4 5
178

{……}まこと全世界の《全ての全て》であり、絶対的能動者たる全一存在にとっては、ただ自己同一化できぬというだけでは充分ではないのだ。いずれ発生すべき《他者》は、{……}仮に《全ての全て》がその全能を投じたとしても、決して破壊 ・攪乱することの出来ぬ絶対的《他者》でなければならぬ。しかして、この破壊不可能性あってこそ真の交感もまた可能となる。そうした段階にまで分離独立した状態こそが、《全ての全て》にとりて《他者》であることの指標なのだ。
   P308 第2行〜

180

    譬えそのものの意味を理解するためには、譬えの出所となった時空について知らなければならぬ。その時空とは、汝自身が属する世界の遠い遠い過去なのだ。ただし、各々が未だ一つの小天体に過ぎなかったその当時の汝ら非在化存在にとってさえ、微小な上に更にも微小な、全く馴染みなき存在領域でのことであった……。
   P311 第3行〜

181

    ……で、その表面存在者たちも、自分たちの活動領域を、細線体ではなく粒子として知覚していた……。
    必ずしも然にあらず。その者らの空間知覚能力は、当然その身体に応じて微小だった故、大半の種族は自分らが生きる領域を複雑なる凹凸をなした無限空間として、一部の種族は概ね平らな無限平面もしくは曲面として捉えていた。だが、その中でも特異なまでに連想能力と飛翔力を発達 ・拡大させた種族だけは、汝が捉えたであろう形と同様の粒子として、ただし途方もなく巨大なる粒子、即ち大球体として認識していた。
   P313 第6行〜

182

    ……左様に繊弱であったかれらが担っていた今ひとつの機能は、極微粒子の知覚増幅であった。光の微粒子が全宙域にく灯っていた時代、無数に存在していた極微粒子のうち、その身体上に表面存在者を発生させたものらには共通の特徴があった。光のみならず熱をも放射していた微粒子からの距離が、ちょうど都合悪くも、著しく溶解性の高い或る物質が液体状態で存在し得るような宙域に位置していたのだ。それゆえ各極微粒子は、周囲からの超極微振動を捉えるためには結晶化していなければならぬ多種の物質が不足し、深刻なる知覚不全に陥る可能性があった。表面存在者という固形存在は、その代替物としての擬似結晶体に他ならなかったのである。
   P316 第15行〜

184

{……}或る存在系の中で斯様に必要もしくは有用なる因子は、系構造における上位のレヴェルに大きく依存するよう元もと作られているのが常である。表面存在者らが、活動空間および身体材料の提供者としての極微粒子に、また、存続可能なる環境温度およびエネルギーの供給者としての光の微粒子に、それぞれ完全に依存していたのは、疎漏なき汝らが現実世界の巧妙なる仕組み故だったのだ。
   P318 第18行〜

185

    大半の種族は、自身の意識を主に発達 ・拡大させたのである。
    ということは、まさか……。
    如何にも左様。汝がその傾倒せし別世界へ移行するがごとく、かれらは身体を極微粒子に貼り付かせたまま、ただ意識のみを飛翔させたのだ。その行動圏は自らが属する世界のあらゆる現実領域に及んだのみならず、特に飛翔力に長けた者らは、他の世界群を訪うことすら稀ではなかった……。
   P321 第1行〜

186

{……}語りを通じて取り込む段はもはや過ぎた。完璧に準備が調いし汝は、直にその主観を知覚するという事態にさえ乱されることはあるまい……。汝が望むならば、遠い過去に時空を違えて実在せし特異種族らそのものに、汝を体感じょう同調させることが出来るが、如何に……?
   P323 第6行〜

187

{……}念のため知らしめておくが、自ら離脱したくなったら汝いうところの観想自己に移行せよ。ここ薄明の領域は封印されし時空であるが、同調領域においては障壁が解除される。……では、意を整えるがよい。
 …………………………。
 唯一者は、一瞬にして、闇に包まれた。
   P324 第1行〜

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162

意識は決して自動的に拡大しない。自らの意志でげるべきものなのだ……。
   P277 第9行〜

ギャップ
165

時間が分立しているこの世界には、律動なき者が意識経験的に存在するなどない{……}。
   P282 第17行〜

ギャップ
171

大事なのは〔……〕数ではなくて、強さだ。ここに{……}携えてきた想いの強さ……。
   P297 第13行〜

ギャップ
176

自分自身とは、分かち難く存在しているものなのではなくて、分かれてもまた自己同一化可能な状態で存在し得る全ての部分を包括したもの……。そして他者とは、決して自己同一化できない存在のこと……。
   P306 第11行〜

177

自己同一化とは共鳴なのだ。{……}一方が他方を占有するのではなく、双方がその共有部分をね合わせるのだ。左様な関係が成立するためには特定の距離と均衡とを要する。たとえ双方に共通部分があっても、その同調条件を満たさぬ限り共鳴は起こらぬ。
   P307 第3行〜

ギャップ
179

極限状況に耐え得る真の強靱さは、究極の異物たる己自身と対峙するに足る宏大さと深さを併せ持ったものでなければならぬのだ。
   P310 第6行〜

ギャップ
183

もとより世界は自身の可能態を漏れなく体現すべく変じていくものなれば、{……}全ての末端存在が、三次元側から観れば尽く一過不再来なる奇物なのだ。
   P318 第7行〜

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